認知症とは
国際疾病分類ICD-10によれば…
『脳疾患による症候群であり,通常は慢性あるいは進行性で,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習能力,言語,判断を含む高次皮質機能障害を示す。意識の混濁はない。通常,情動の統制,社会行動あるいは動機づけの低下を伴う』とされています。
簡単に表現すると「出来ていたことが出来なくなる疾患」とも言えます。
生まれてから成人になるまでの間に発達したはずの精神機能が、慢性的に低下してしまい、日常生活や社会生活を送ることが困難になる状態です。
知的障害とは異なり、後天的に知能が低下していく特徴があります。
認知症と老化
誰でも年を取ると、もの忘れが増えてしまうことはありますが、「老化によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」は大きく異なります。
老化によるもの忘れの場合、第三者から指摘を受けることをきっかけに、忘れていた内容を思い出すことができます。また、自分自身で思い出せることもあります。
一方、認知症の場合、忘れている状態を自覚することができません。第三者から指摘を受けても自分で考えようとしても、思い出せなくなってしまいます。忘れたことを自覚できないまま指摘を受けても、「約束していない」「自分は何も頼まれていない」と考えたり、思い出した振りをしてごまかしたりするようになります。
そのため認知症によるもの忘れは、老化によるもの忘れと比べて、日常生活において大きな悪影響を及ぼしてしまうのです。
認知症の症状
「出来ていたことが出来なくなっていく」中核症状と
「なかったことが新たにあらわれる」周辺症状(行動・心理症状)(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia : BPSD)に分けられます。
中核症状
- 脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状
- 記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、遂行機能の低下など
いわゆる物忘れもここに含まれます。
- 約束を忘れる
- 物を無くす
- 計算できないためお札で買い物をする結果、自宅内のいたるところに小銭が置いてある
- トイレの場所が分からなくて住み慣れた自宅内をうろうろ迷う
- 待ち合わせた時間、場所に一向にたどり着かない
広い意味では視覚や聴覚の低下も含みます。
周辺症状(行動・心理症状)
- 中核症状のため周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなる
- 中核症状を踏まえ、性格、環境、人間関係などの要因から、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こる
抑うつ、幻覚(幻視・幻聴・体感幻覚・幻臭など)、妄想(もの盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想など)、攻撃性、易怒性、暴言、暴力、不眠、昼夜逆転など、認知症においては中核症状よりも困ることが多いかもしれません。
中核症状と対比すると、本来、患者様が生きてきた中で見ることがなかった症状を新たに認めるようになるため、介護者はすぐに対応できずに途方に暮れてしまうこともあります。
認知症の種類
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多くみられるタイプです。発症する原因は解明されていませんが、「アミロイドβ」というタンパク質が関与しているのではないかと言われています。
もの忘れから始まり、その頻度がだんだん増えていくケースが多いです。大脳の機能が衰えると、寝たきりリスクが上昇してしまいます。治療を受け、進行を抑える必要があります。
レビー小体型認知症
「レビー小体」という特殊なタンパク質が、脳の広範囲に現れる認知症です。
初期段階では認知機能の低下は目立ちませんが、動物や虫、人などの幻視や気分の落ち込みなどの精神症状が現れます。加えて、こわばりや手足の震え、表情の変化の乏しさなどのパーキンソン症状や失禁、便秘などの自律神経症状が現れることもあります。
前頭側頭型認知症
前頭葉や側頭葉の萎縮がみられる認知症です。
盗み食いや万引きをしたり、交通ルールを守らず無謀な運転をしたりするなど、理性や抑制を欠いた行動をしてしまう特徴があります。また、物事に無関心になるといった症状もあります。
脳血管型認知症
脳の血管が破れたり詰まったりする脳血管障害によって発症する認知症の総称です。
もの忘れをはじめ、痺れや失語(聞く、話す、読むなどの能力に障害が出ること)、麻痺などの機能障害を伴います。機能障害は、障害された脳の部位によって異なります。
急に症状が現れるケースもあれば、階段状に悪化するケースもあります。
認知症の検査・診断
症状などをお伺いし、注意力や記憶力、問題解決能力、計算力、言語能力などを測る検査を行い、総合的に判断します。
クリニック外来では「ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)」や、「長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Scale-Rivised:HDS-R)」といった簡易的な認知機能検査を主に行います。
また、ビタミン不足や甲状腺機能の低下の可能性がないかを血液検査で調べたり、身体疾患やその内服薬によって認知機能障害が起きている場合もあるため、お薬手帳や身体疾患の既往を詳しく伺います。
上記した鑑別診断のため、形態的な頭部画像検査(頭部MRIやCT)やその他の詳しい画像検査を行う事もありますので、必要であれば関係医療機関をご紹介いたします。
認知症の原因
認知症のタイプによって、原因は異なります。
まず、アルツハイマー型認知症の場合は、脳に「アミロイドβ」というタンパク質が溜まってしまい、脳細胞が壊死・減少することで発症します。アミロイドβは老化に伴って増加しやすくなるため、高齢者の患者数が多いことが特徴です。(一部、30~50代で発症する「若年性アルツハイマー型認知症」というタイプもあります。)
レビー小体型認知症は高齢の男性に多くみられ、神経細胞にできた「レビー小体」というタンパク質が、脳の大脳皮質や脳幹に増殖することで発症します。
脳血管性認知症は、脳出血・くも膜下出血・脳梗塞などの疾患によって、脳血管がダメージを受けてしまうことで発症します。この認知症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症)を発症した方に多くみられ、喫煙やストレスも発症の引き金になると言われています。
軽度認知障害(MCI)とは
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)についても広く知られるようになりました。軽度認知障害におけるもの忘れは、生活にそこまで悪影響を及ぼさないとされています。日常生活は普通に営めており、すなわち認知症ほど破綻していませんが、少しずつ出来ていたことが出来なくなってきている状態です。
早めに症状を把握しておくことで今後の認知症への移行を予測したり、適切な対処につなげることが出来るため、この状態を理解しておくことが重要です。
軽度認知障害の研究は近年進歩しており、主には非薬物療法である食事や心理療法、トレーニング、場合によって一部の薬物療法など、いくつかの対処法がご紹介できるかも知れません。
当クリニックでは、認知症や軽度認知障害の治療、予防にも力を入れています。少しでも心配なことがありましたら、お気軽にご相談ください。
軽度認知障害(MCI)の症状
- 同じ質問を何度もする
- 最近あった重大なイベントの内容を、ぼんやりとしか覚えていない
- 最近起きた重大なニュースの内容を、はっきりと覚えていない
- 昔行った旅行についてはよく覚えているのに、最近行った旅行についてはあまり覚えていない
など
認知症の治療
中核症状の治療
まず、軽度認知障害(MCI)への薬物療法には十分なエビデンスがないため、この時点での治療開始は勧められませんが、状態を把握しておくことで予後の予測が可能となること、運動療法や食事療法、例えば水泳や手芸、カラオケなど、何かしらの集団に属することで対人関係や自尊心を保つことなど、薬物療法以前に生活を見直し、今ある機能を出来る限り保つことは非常に重要です。
また、以下は認知症にも共通しますが、生活習慣病の病状が悪く、十分な治療介入が出来ていない場合など、身体疾患によって認知機能障害を生じているケースや、アルコール依存が原因で認知機能が低下しているケースなど、患者様の背景や状態を把握することで効果的に症状を改善できる場合もあるため、まずは詳細な問診をさせていただく必要があります。
いずれにせよ、患者様一人での問題解決は難しいため、出来る限りご家族や理解者の協力が必要かと思われます。
こう言った十分な検討の上で、必要な場合に薬物療法の導入となるわけですが、認知症を完治させることは、現代の医学では難しいとされています。そのため、進行速度を遅くする治療を行い、QOL(Quolity of Life;QOL「生命の質」「人生の質」などの意味です)の低下を防ぐことを目指します。
ただし、抗認知症薬と呼ばれる、認知症の進行を遅らせる薬物療法の対象となる認知症はアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症に限られます。
また、心不全や腎不全などの身体疾患をお持ちの場合には抗認知症薬の導入を見送らねばならない場合もありますので、十分に身体的な状態や既往歴などを把握した上で、使用に向けて検討いたします。
認知症は誰でも発症する可能性のある疾患ですので、早期発見・早期治療できるよう、適切なアドバイスを心がけます。
周辺症状(BPSD)の治療
「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」(厚生労働省,2015)においても、「まず非薬物療法的介入をご家族や介護スタッフと検討し実施すること。その上でもなお症状が改善しない際に薬物療法を考慮すること。」と記載があり、安易な薬物療法の導入に注意を促しています。
中核症状の項にも記載した通り、健康状態や生活習慣・環境、持病や内服薬、アルコール等の物質摂取などでも周辺症状に至ることがあるため、十分な状況の把握や対応が最優先となります。
それでも激しいBPSDによってご本人やご家族のQOL(Quolity of Life;QOL「生命の質」「人生の質」などの意味です)を著しく損なっていると判断された場合、上記ガイドラインなどを参考に薬物療法の導入を検討します。
※当院は順天堂東京江東高齢者医療センターの連携病院となっています。
当院にて、認知症関連での入院加療が必要と判断した場合、順天堂東京江東高齢者医療センターへの入院依頼が可能です。待機期間が発生する場合もあり、急性期には十分なご対応が出来ないこともありますが、一先ずご相談いただければと思います。