更年期障害とは
更年期は女性なら誰もがやってくる時期で、重要な転換期です。女性は閉経前後に、「エストロゲン」という女性ホルモンの分泌量が減少します。この時期になると不眠やうつ、不安など、精神的な不調が起こしやすくなります。また、頭痛や肩こり、発汗、のぼせ、冷えなど、身体的不調も起こりやすくなります。これらの症状を総称したものが「更年期障害」です。
また、更年期障害は女性だけに起こるものではありません。近年では男性更年期障害も広く知られるようになってきました。
更年期障害の原因
エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの減少が進むことが原因です。男性も同じく、男性ホルモンの減少が原因で発症します。また、ホルモンバランスの影響だけでなく、仕事やご家族との関係など、心理的・環境的なことも原因となります。
更年期障害の症状
頭痛や肩こり、のぼせ、発汗、冷えなど、様々な身体的不調が現れます。
特に典型的な症状は「ほてり」で、「ほてり」は他の不調を引き起こす原因にもなります。
更年期障害の検査・診断
はっきりとした診断基準は設けられていませんが、多くの場合、「50歳前後で月経周期の変化がある」または「閉経がきてから5年以内」に、先述したような症状がある場合に更年期障害と診断されます。また、血液検査では女性ホルモンの一種であるエストラジオール(E2)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の数値を調べ、その結果を診断の補助として使うこともあります。
基本的には検査も含めたフォローのため、婦人科の併診をおすすめしています。
更年期障害の治療
運動習慣や食生活の改善によって症状が軽快する可能性があったり、心理療法の効果についても徐々に明らかになってきているため、必ずしも薬物療法の導入が優先されるわけではありませんが、薬物療法が効果的な場合もあります。
主には婦人科による閉経期ホルモン療法(ホルモン補充療法)や漢方薬治療が挙げられますが、精神科においても向精神薬による加療が奏功することもあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors ; SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin & norepinephrine reuptake inhibitors ; SNRI)などの抗うつ薬を用いますが、不安・緊張などへの抗不安薬の使用や睡眠障害に対する睡眠薬の使用なども適宜検討します。
月経前症候群・月経前不快気分障害とは
月経前になると、多くの女性が「気分の落ち込み」や「イライラ」、「体調が悪くなる」などの不調に悩みやすくなります。このような、排卵から月経開始までの時期に起こりやすい症状をまとめて呼んだものが「月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)」です。
具体的には国際疾病分類ICD-10において、以下の症状を一つ以上認めれば診断されますが、明確な重症度の規定はありません。
- 中等度の心理的症状
- 腹部膨満、胸部圧痛、体重増加、腫脹、疼痛、集中困難、睡眠障害、食欲の変化
- この症状のうち1項目が黄体期に該当し、月経開始時に消失する
一方、月経前に精神症状がメインかつ著しい場合には月経前不快気分障害(Premenstrual dysphoric disorder:PMDD)と呼びます。
著しい感情の不安定性、怒り・苛立ち、抑うつ気分、不安などの症状を中心に日常生活に多大な支障となりますが、月経終了にかけて徐々に症状が軽快、消失する疾患です。
月経前症候群・月経前不快気分障害の原因
PMS,PMDDの原因は諸説ありますが、現代でもはっきり分かっていません。その中でも、有力な説を下記にまとめてみました。
PMS,PMDDが現れる有力説
- 排卵後に卵巣から分泌される黄体ホルモンの働きによって、身体に水分が溜め込まれやすくなり、それによって様々な症状を引き起こす説。
- β-エンドルフィン(モルヒネと同じような作用を持ち、脳内から分泌される物質の一つ)の分泌量が月経前になると一気に低下するため、うつ状態を招きやすくなるのではないかという説。
- セロトニンの分泌量が低下することで、色々な精神症状が引き起こされるのではないかという説。
月経前症候群・月経前不快気分障害の症状
上述の通り、PMSでは主に身体的な症状が現れやすい傾向にありますが、PMDDにおいては精神的な症状がメインとなっており、いずれにせよ日常生活に支障をきたしやすく、辛い思いを抱えやすくなります。症状の内容や度合いは患者様によって異なり、症状を数えると150以上もあると言われています。
精神的な症状
- 涙もろい
- 憂うつ
- 孤独感
- 無気力
- 緊張感を感じる
- 怒りやすい、反感、闘争的になる
- 判断力・決断力が低下する
- 集中力・気力が低下する
- 疲れやすい
- 眠れない
- パニック
- 妄想症
など
身体的な症状
- 下腹部が痛い
- 下腹部の膨満感
- 乳房が痛い
- 乳房が張る
- 頭痛
- 腰痛
- 関節痛
- めまい
- 便秘あるいは下痢
- 食欲が増す
- 体重が増える、むくみ、脚が重い
- ニキビ
- 悪心,動悸
など
月経前症候群・月経前不快気分障害の検査・診断
月経周期と症状の因果関係があるかどうか、問診にて伺います。貧血・排卵の程度なども伺い、場合によって採血なども検討しますが、基本的に身体的な問題は婦人科の併診を
おすすめしています。
月経前症候群・月経前不快気分障害の治療
婦人科からのホルモン療法投与、もしくは精神科からは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors ; SSRI)と呼ばれる抗うつ薬は効果的と言われており、場合によっては双方を併用することもあります。
このため、前述した通り、婦人科との併診をおすすめしています。
大まかには、PMS,PMDDに伴う身体症状には婦人科治療を、精神症状には精神科治療を、と考えていただくと分かりやすいかもしれません。
不安、緊張やパニック、不眠などの症状には抗不安薬や睡眠薬を併用することもあります。